米国株紹介 New Relic (NEWR) 監視・分析ツールの老舗大手SaaS、製品・価格体系を大胆にシンプル化|銘柄分析

New Relic (ニューレリック)は、アプリケーションとインフラストラクチャのパフォーマンスを監視できるクラウドモニタリングツールのSaaSです。

クラウドモニタリングツール市場は、SaaSグロース株で注目されているDatadog(DDOG)やAmazon(AMZN)が提供しているAmazon CloudWatchをはじめ、年々競合が勢いを増していますが、多くのサービスはサーバーの死活管理などいわゆる基盤に焦点が当てられています。
その中でNew Relicは、単に技術的な”状態”だけを監視するのではなく、ビジネスの重要指標やユーザー側の顧客体験状況に焦点を当てることを前提に設計されたサービスとなっています。

しかし、この差別化を機能として落とし込むことは難しく、ビジネスニーズに応えるためのカスタマイズの柔軟性が前線で扱う技術者にとって導入・運用ハードルを上げていたり、機能が追加されるたびに課金体系が複雑化し、コスト予測が不透明なものとなっていました。(後者についてはDatadogも同じで、モニタリングサービス業界は機能、監視対象、データ量、保存期間等々でコスト規模が異なるため複雑になりやすいのが特徴にあります。参考:Datadog 価格ページ

課金体系が複雑化はクロスセルと言うビジネスモデルで、他の製品と併せて購入してもらうことでユーザ当たり売上単価の向上に繋がるので企業側にとっては有利に働くのですが、新興企業が成長してきて競争が激しくなってきた市場で売上成長率が低調化してきたNew Relicにとってはコストの高さが顧客獲得の機会損失になっていました。

このような背景もあり、個人的にもNew Relicに注目していなかったのですが、先日、製品・価格体系の大幅な変革が行われ、シンプルな製品・課金体系に変わったことで再注目することにしました。

New Relic、オブザーバビリティプラットフォーム 「New Relic One」の製品・価格体系を3つの主要技術に統合

この変革により、”オブザーバビリティ(可観測性)”をキーワードにサービス価値を強く明確に打ち出せることに成功し、コスト面でも低コスト化と自動従量課金の廃止でユーザ(企業)が受け入れやすい価格体系となりました。また、フリーミアムで運用できる範囲も広がったことで中小企業を中心に新規の顧客獲得がしやすくなった印象を受けたので、今後の成長を期待して今回はこの銘柄を取り上げることにしました。

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企業情報

  • 名前:New Relic, Inc.
  • ティッカー:NEWR
  • 取引所:NYSE
  • 設立:2007
  • 業種:アプリケーションソフトウェア
  • セクター:ソフトウェア
  • 時価総額:37.75億米ドル
  • 発行済株式:60.24m
  • ウェブサイト: https://www.newrelic.com

競合他社

  • 【DDOG】Datadog, Inc.
  • 【DT】Dynatrace, Inc.
  • 【SPLK】Splunk Inc.

改めて、New Relicとは

New Relicは、監視対象のシステムやアプリケーションからデータを収集して可視化できるクラウドモニタリングツール「New Relic One」を提供しています。同社は、必要なシステム監視情報を漏れなく取得できることを“オブザーバビリティ(可観測性)”と呼んでおり、「New Relic One」をオブザーバビリティプラットフォームと定義しています。

オブザーバビリティを理解するには、以下のツリーをイメージするとよいです。

リアルタイムで発生している”症状(具体的にはエンドユーザの元で発生している不具合やビジネスにおける重要指標)”とそれに影響を及ぼしている”根本的な原因(サーバー、アプリケーションエラー)”を迅速に特定できるように、あらゆるシステムやアプリケーションを1ヶ所に接続させて分析、トラブルシューティング、最適化することができる状態を指しています。そして「New Relic One」が、この”1ヶ所”を担うわけです。

「New Relic One」は、AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどの主要なクラウドプロバイダーを含む、300を超えるシステム/フレームワークや言語に対応し、同社が提供するエージェント(プラグイン)をインストールするだけで自動でシステムのログを収集し、監視を可能とします。

「New Relic One」の新しい製品・価格体系

前述の通り、従来は複数に分かれていた製品と価格体系をシンプルに3つの機能に統合しました。この3つの機能を深掘りすると長文の技術記事となってしまうため、当記事ではユーザ(企業)側にとってどのようなメリットが生まれたかを中心に簡単にご紹介します。

専門知識をお持ちの方は、簡潔にまとめられている公式動画をご覧いただければと思います。

これまでユーザは、アプリケーションとインフラストラクチャ全体の全体的な監視を実現する上でいくつかの課題がありました。

  • システムの技術毎にいくつものツールで様々な部分を監視する必要があった
    • 問題が発生した場合はそのいくつものツールを横断して調査する必要があった
  • システムごとに様々なデータが形式が存在するため「単一の信頼できるソース」がなかった
  • 高価で複雑なホストベースの価格設定は、”コストの調整”によりすべてを計測することを防ぎ、データの収集に盲点を残していた …など

そして、New Relicはこれら課題を解決するために3つの製品に大幅に簡略化し、1つの完全な監視プラットフォームを構成しました。

Telemetry Data Platform(テレメトリデータプラットフォーム)は、業界最安値ですべてのアプリケーションやインフラストラクチャのデータを収集し、「単一の信頼できるソース」としてアラート、ダッシュボード、分析や高速なログ検索を提供します。ダッシュボードはフルアクセス権限のない無料メンバーでも閲覧が可能なため、社内のあらゆるメンバーが単一な重要指標をいつでも確認でき、企業として一貫性のある意思決定を迅速にできるようになります。

Full-Stack Observability(フルスタックオブザーバビリティ)は、複数合った既存の製品と機能を統合したもので、その名前の通りログ、インフラストラクチャ、アプリケーション、エンドユーザーエクスペリエンスデータなどエンドツーエンドでの可視化を提供します。これによりエンジニアがブラウザやソースコード、サーバを個々に調査することなく迅速にボトルネックを発見することができます。

Applied Intelligence(アプライドインテリジェンス)は、システムの異常な振る舞いを人間よりも早く検出し、関連性のあるインシデントを自動関連づけます。インシデントを迅速に検出、理解、解決するためのAIOpsを提供します。

またこれらに対して、フリーミアムの基準と価格体系も一新されました。

[フリーミアムの内容]

  • Telemetry Data Platform:毎月100GBのデータ取り込みまで無料
  • Full-Stack Observability:フルアクセスのユーザーライセンスを1つまで無料
  • Applied Intelligence
    • Proactive Detection (異常検出):毎月1億件のアプリトランザクションまで無料検出
    • Incident Intelligence (インシデント相関分析):毎月1,000件のインシデントイベントまで無料

これらを超える場合、以下の課金体系でコストを予測することができます。

  • Telemetry Data Platform:1GBあたり課金。1GBで0.25ドル
  • Full Stack Observability:シートライセンスごとの課金
  • Applied Intelligence:トランザクションまたはイベントごとの課金

3つの機能に対する3つの価格体系でとてもシンプルになりました。機能と価格面からこれまでの課題も解決され、利用可能なすべてのデータ観測と集約を以前よりも劇的に低コストで活用できるようにすることで、オブザーバビリティ(可観測性)本質を追求できるようになっています

そして、New Relicにとっても3つのコア製品と価格モデルの簡素化による価値提案がしやすくなったことから、販売およびマーケティングの生産性の向上が期待できると考えています。

株価の反応としては追い風か無風といったところのようです。ちなみにその後の決算で大きく落としていますが、EPSは予想0.03に対し0.15、売上高は予想159.33Mに対し162.59Mと上振れでした。

CAN-SLIM

名著「オニールの成長株発掘法」が提唱するCAN-SLIMを基に高い成長が見込める成長株か判断していきます。これを満たしていれば、高パフォーマンスあわよくばテンバガーを狙える可能性があります。

CAN-SLIMとは

上場して比較的日が浅い成長企業に対してこれから成長が期待できる企業か判断するために、過去に上手くいったケースをルール化してまとめたものです。それらの頭文字を合わせたものをCAN-SLIM(キャンスリム)と呼びます。

C = Current earnings(当期利益が良いか?)
A = Annual earnings(通年の利益が良いか?)
N = New product or service(新製品・新サービスを出しているか?)
S = Supply and demand(その銘柄の需給関係が良いか?)
L = Leader or laggard?(その銘柄が相場の先導役か?それとも出遅れか?)
I = Institutional sponsorship(機関投資家に好まれているか?)
M = Market(一歩さがって相場全体の地合いは良いか?)

これらルールに設けられた背景をより詳しく理解したい方は本著を一読することをお勧めします。

以下のルールでは各々の指標を満たしているかを確認していきます。オニールが提示している指標から少しアレンジしていますが、ハードルは上げています。

Current earnings(当期利益が良いか?)

  • 前年同期比で売上高EPS40%以上増加しているか
  • 直近3四半期で売上高EPS加速度的に増加しているか
  • 直近四半期の粗利率70%を超えているか

売上高は右肩上がりではあるものの、成長率をみると右肩下がりで直近1年では半減しています。この下がり方はコロナのせいにはできないでしょう。粗利率は80%前後と非常に高く効率がいいですね。直近四半期で粗利率が落ちているのは、今回の新製品絡みでコストが掛かったものかと思います。

Annual earnings(通年の利益が良いか?)

  • 過去3年間で売上高EPS40%以上増加しているか
  • 過去3年間で売上高EPS加速度的に増加しているか
  • 年間でROE(自己資本利益率)が17%以上か

通年で見ても傾向は同じですね。販管費が増えている一方で売上高成長率は比例せず、やはりこのままでは将来的に難しい状況であったことが伺えます。

New product or service(新製品・新サービスを出しているか?)

  • 新興企業、新製品、新経営陣、新高値 の何れかを満たしているか

新製品については既に触れてきたのでここでは新経営陣にも注目しておきます。2020年は役員の入れ替わりが多かったようです。ひとりひとり調べてはいないため、具体的なところはわかりませんが新製品に新経営陣で復調してくれることを期待しています。

まとめ

少し長くなってしまったので半ば唐突ですがここまでにしたいと思います。今後、New Relicは一変ありそうということはご紹介できたのではないでしょうか。

昨今ではクラウドモニタリングツールを機能として差別化するのは難しくなってきました。また、モニタリングというのはただ数字を可視化するだけではなく収集したデータをどのように活用するかが本質的な課題となります。

今回の変革ではユーザの声を元にこの課題に向き合い、業界の典型的な価格体系にメスを入れた大胆なアクションに非常に好感を持ちました。

投資家としては実際の数字が出てくるまでしばらく様子をみてもいいかもしれません。この業界に投資を検討している方は動向を見守りましょう。

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